シリコン注入
規制をものともせずにシリコン注入の人気が続いた陰には、いくつかの理由があります。
まず施術する側にも患者にも、どちらかといえば簡単だったことです。
危険や面倒なしに手術と同じ効果が得られ、しかも入院なしですむことから、美容外科には願ってもない治療法でした。
しかも、報告されるトラブルは重症から軽症までまちまちです。
医療用シリコンが人体にどんな影響をおよぼすかはまだはっきりわかっていなかったのに、医師も含めて大方の人びとは、トラブルの原因を不純物が混入した産業用シリコンや、ピーナツ油やオリーブ油などの代用品を使ったせいだと決めつけていた。
乳癌との因果関係についても同じことがいえます。
豊胸用シリコンに反対する外科医のほとんどが理由としてあげたのは、それが乳癌を誘発するからではなく、できてしまった乳癌の発見が遅れるからでした。
液状シリコン
1964年のアメリカ耳鼻科形成外科学会の会合では液状シリコンが話題になり、「老けた顔を若返らせる驚異の液体化合物」をめぐって大きな騒ぎになったそうです。
そのようすを『シカゴ・デイリー・ニュース』の記者が目撃しました。
医師たちはシリコン注入の問題点おもに長期的な影響が不明だということーについても論じていたが、記者の存在に気づくと、外部にもれるのを恐れてぴたりと口を閉ざしてしまった。
記者によれば、医師たちは珍しいくらい興奮していたそうです。
最も保守的な外科医でさえ「美容外科の分野に革命をもたらすだろう」といっていた。
なかには、ダウ・コーニング社とFDAの動きに刺激されて、シリコン注入の裏話がすっぱ抜かれることもありました。
スポンジ・インプラント
かつての手法だったスポンジ・インプラントによる豊胸術を受けた女性のほとんどが結果に満足していたようですが、アイバロンなどの合成スポンジはその後もさまざまなトラブルを引き起こしました。
最も多いトラブルは硬化です。
時間がたつにつれて、胸部の組織がスポンジの周辺で収縮をおこし、しかも組織がスポンジの気孔を通してスポンジ内部に浸透してしまいます。
こうなると、スポンジの摘出は不可能とはいわないまでもひどく困難になり、ときには大きな傷や変形のもとになってしまいます。
そのため、外科医たちは技術開発によりいっそう熱心になりました。
液状シリコンの注入による豊胸術はその初期から、おもにもぐり医者が手がけてきたため、起源はよくわかっていません。
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